*始めに言い訳を…。私はマジで馬やレースやこの時代のことなどについてサッパリです。すみません!あ、過去ジョニィです。



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 大きな音が立つほどの強さで厩舎の壁に叩きつけられ、背中に鋭い痛みが走った。
「痛てえ…! 何すんだよ、てめえら!」
 怒鳴りつけても二人はニヤつくばかりだ。すぐ目の前に立たれ、体を起こすこともできない。
 夜の馬屋はひんやりと冷たく、遠い入り口に夜の空が見える。電灯のほのかな光だけがここでは唯一の明かりだった。
「おっかねーな、大声出すなよ。馬たちが驚いてんじゃん」
 僕を壁に叩きつけた、どこかで見たような気がする男はそう言って下卑た笑い方をした。その言葉通り、ヒヒン、と小さな声がいくつか上がり、馬たちが不穏な気配を感じているのを知らせてくる。
「人間だけじゃなくて馬にも嫌われちまえよ」
 さっきとは違う男がいかにも憎々しげに吐き捨て、立ったままに険しい顔で僕を見くだす。
「……誰だか知らないが、俺を集団でボコる気か?」
 舌打ちしてそう聞くと、何故か男どもは顔を見合わせた。そして、片方が俯いてぶるぶると震え、強くこちらを睨め付けたかと思うと勢いよく僕の腹辺りを蹴りつけようとしてくる。
「ナメやがって!」
「落ち着けよ、蹴ってケガでもされたら計画が台無しだぞ!」
 それと同時にもう一人が怒鳴り、男の体を後ろから羽交い締めにした。抑えられた男は、しばらく息を荒げ暗い中でも分かるほど目をギラつかせていたが、何とか平常心を取り戻したようだった。忌々しげに表情を歪め、一歩体を引く。
 ずっと座り込んでいる気もなかったので立ち上がり、僕はにやけた男を睨んだ。
「計画ってのが何なのか知らないけどさあ、俺が誰だか知らないでここに押し込んだわけじゃねえだろ? 明日、何があるかも知ってるよね?」
 そう言ったが、目の前の男はこの言葉を聞いてますます笑みを深くした。

**********

 ほどほど大きなレースが明日に迫っているとはいえ、今回は、いつも勝てない相手――つまりDioが出ないので、奴が出るレースよりは気が楽だ。これまでの成績などを見ても、よほど気を抜かなければ負けはしないだろう。
 他に人もいない夜の厩舎で、僕は明日レースを共にする馬の傍へ座りそのようなことを考えていた。
 走る馬の筋肉を見るのが好きだ。けれど、それだけが好きなんじゃない。匂いが好きで、心地よく響く蹄の音が好きで、見た目も、近くに流れる空気も好きだ。それに小さいころから馬には馴染んでいるので、慣れない一人暮らしの部屋よりも、馬たちがいるこの小屋の方が落ち着けたりする。厩舎の匂いはどこでも共通だ。
 そんな理由で、レース前の高揚を冷ますため僕はここへ来ていた。
「………そろそろ、行くか」
 今日は、もうこの場所で充分な時間を過ごした。これ以上いては睡眠時間を削ってしまうことになり、リラックスしに来たのが逆効果になってしまう。
 ぶるるる、と背中に聞こえる馬の声に少しの名残惜しさを感じつつも、僕は帰るため、厩舎の入り口へ向かった。
 そして電気を消すため体の向きを変え――その途端に、口を何者かの手で荒々しくふさがれた。
「やっと出てきたか、待ちくたびれたぜ」
「!」
 何が起きたか分からなかった。
 全く予想しなかったことに一瞬体が硬直する。その短い隙に腰を掴まれ体を強く押され、勢いよく駆け込むいくつかの足音がし、何が何だか分からないうちに背が厩舎の奥の壁に叩きつけられていたというわけだ。


「明日が何の日か? 分かるに決まってんだろ、俺らだってレースに参加するんだから」
 睨み付けた相手は、僕の反応を楽しむようにゆっくりと言ってみせた。
「くそ。天才とか言われて調子に乗りやがって! 自分に負けた相手なんか覚える価値もないってのか」
 その男とは対照的に、先ほど蹴りを喰らわそうとしてきた相手はまたも激昂している。その内容を聞いて、さっきこいつが何故あの一言に過剰反応したのか理解した。過去に競ったことがあるらしいのに覚えていなかったのでキレたのだ。
 あまりのくだらなさに笑いが洩れた。
「はあ? なに、お前ら、俺にいつも負けてる奴なの? ショボくない? で、このままじゃ明日も負けるからボコろーって? ばっかじゃねえのー?」
 馬鹿らしくて、言う合間合間にも嘲笑が混じる。馬たちがこちらの様子を窺っているが、頭にきている今は繊細な彼らに配慮するのはとても無理だった。
「殴りに来たならさっさとやって帰れよ」
 厩舎の通路はさほど広くない。人並み程度の体格の男が二人並んでしまえば、そこを通り抜けることなどとても不可能だ。仮に油断していてさえ難しいだろう。それに、だらだらと話したところで相手がどくとも思えない。
 ここは、癪だが殴らせておこうと思った。痛いのは物凄く嫌だ。それに下手なところをやられて明日のレースに参加できなくなったりしたら本当に困る。が、はっきりとした外傷が残れば、誰に事情説明するにも困らない。こうして顔も見せてきているのだから、後日、こいつらのことを訴えれば相応の罰は与えられるだろう。
 しかし、男はやれやれとでも言うように、大げさに息を吐いた。
「やだねえ。天才さまはこっちの話を聞いてないぜ」
「はあ?」
「俺たちは、生意気なジョニィ・ジョースターさまを殴ってすっきりしたいわけじゃねえんだよ」
 意味が分からなかった。じゃあ、何だってんだ。カツアゲか?まさか、罵倒していくだけなのか?そんなことをチラと思ったが、二人の表情は険しく、とてもその程度で済ます気には見えない。
「チクれないように、誰にも言えないような苦痛とショックを味わわせて、更にレースでも、一見いつも通りでボロ負けさせたいわけ」
 一人が話すともう一人も続けた。
「いつもいつも、勝って当然みたいな顔しやがってむかつくんだよ」
「じゃあ努力して勝てば?」
 僕は、乗馬に関しては努力をしている自負がある。誰にも頼らず生きると決めた以上、負けました無理でしたなんて言えないし、言う気もないからだ。なのでこう言ったのだが、奴らは僕のセリフを挑発だと受け取ったようだった。じりじりと距離を詰めてくる。
「ほんと腹立つよ、ジョニィ・ジョースター。そのツラをこれから崩せると思うと、嬉しくて堪んねえ」
 壁際まで追い詰められる。相手との距離はほんの十数センチ程度だった。こいつらは、一体何をするつもりなのだろう。
 さっさと終われと思うと同時に、どこかで仕方ないとも考える。普段の自分がどんな態度を取っているか。自覚がないわけではない。それに、どこかで運命に追いつかれる人生だ。もしそれが今だとしても覚悟はしている。諦めはつく。
「抵抗すんなよ。俺らも、さっさと終わらせて離れたいんだから」
 一人に両腕を束ねられたところに、もう一人が襲いかかってきて再び床に転がされる。背中を打ちつけ、痛みに身じろぐも押さえ込まれたせいで意味をなさない。服越しにひんやりとした床の温度が伝わってくる。
「何が目的なんだよ? こーやってゴロゴロ転がしに来たわけ?」
「ふん、そんな生意気が口が利けるのも今だけだ」
 言うと、先ほど腕を押さえてきた男が自分のポケットを探り出した。そして何か、小さな瓶らしきものを取り出す。
「これを飲んでもらおうか」
「………なんだ? それ」
 もしや痺れ薬か何かだとでも言うのだろうか。確かにそれなら明日のレースには参加できなくなるかもしれないが、誰にも言えなくしたいそうだから、それではおかしいだろう。
「これはな」
 あっさりと答えた男が続けた名称は、僕も知っているものだった。けれど、その用途はとてもこの場で予想できないものだ。
 まさかと、信じられない思いに男を凝視する。二人は顔を見合わせて小さく笑った。
「なんだ、やっぱり知ってるのか。これを使って明日は足腰立たないようにしてやる」
 これは、端的に言ってしまえばセックス・ドラッグだ。僕自身も何度か使ったことがある。中毒性は無いらしいが効き目はなかなかで、ジュース辺りで割って飲んでしまえば、ものの数分で飛べる。
 軽めとはいえ麻薬なので結構な値段で取り引きされてるはずだし、そもそも違法物だ。こんな目的のためにわざわざリスクを犯して入手したのならいっそ感心してしまう。
「さてと、それじゃ分かったところで飲んでもらおうか」
 また腕を押さえられたかと思うと、仰向けにされた口に瓶を近づけられる。
「やめろ! 正……気、ごふっ」
 妙な目に遭わされたくない一心で怒鳴ったのが間違いだった。その隙に瓶を傾けられ、喉に直接液体が掛かる。
「げ……ほ、げふ」
 むせてしまい、そのまま反射で咳き込むも、液体はもう飲み込んでしまった後だった。残りの分が口の脇から零れ、頬から髪、床へ垂れる。
「この野郎、ふざけた薬使いやがって…」
 仰向けのところに飲まされたので喉が苦しい。何度も咳をして少しでも楽になろうとするが、なかなか感触は消えない。
「どのぐらいで効くんだろうな」
「さあ。バッチリ効いてくれないと困るな。抵抗されるし、ショックも小さくなっちまう」
 頭上ではそんなふざけた会話がされていた。
 この薬は、とにかく効果がすぐ出ることで有名だ。ある種のプラシーボ効果なのかもしれないが、実際、今までは使った直後に効いていたし、それを知っているからこそ、今にも効果が出そうな不安を覚える。
 そんなことを考えているせいなのか、冷たい床なのにじわじわと温度が上がってきたような気がする。きっと、気のせいだ。だが、気のせいだろうが何だろうが、一度そう考えてしまうと忘れることはできない。
 考えるな、これは冷たさに慣れただけだ。そう思おうとするのに、気づけば体が温まってきたように感じる。
「離せ……。殴るならともかく、何てこと考えるんだ」
 薬の強力さを知っているだけに、抵抗する気が始めと比べずいぶん減ってしまう。吐き出した声の響きは先ほどより弱かった。
 そんな様子にはお構いなく、突っ立っていた男が自分のズボンから萎えた性器を取り出した。それを握ったまま、かがんで近づけてくる。
「このままじゃとても勃たないから、舐めろよ」
 暗くてよく見えないのは不幸中の幸いなのかもしれない。だが、それが性器なのは明らかだ。顔からほんの10センチぐらいのところにそんなものを差し出され、気持ち悪さに目眩がしそうだった。
「やってみろ! 噛みきってやる」
 本心からそう怒鳴る。こんなものをしゃぶらされては堪らない。唇にでも押しつけられたら思い切り噛んでやろうと思った。想像しただけでも痛みを想像して自分の身まですくみそうになるが、絶対やってやる。
「お、おっかねえな」
 口調の激しさから本気なのを悟ったのか、男は情けなくもあっさり離れた。さすがに今の宣言は怖かったらしい。
「上は脱がす必要あるのかな」
 その間にも、腕を掴んでいた男が腰の辺りに手を這わせ、服を脱がそうとしてくる。
「おい、やめろ……!」
「ぐへっ」
 怒鳴って蹴りを入れるとよろめいた。しかしすぐに体勢を戻し、ズボンや背を探ってくる。それを見てもう一人もまた近づいてきた。再び蹴りを入れてやろうとしたが、足を押さえられる。
「とりあえず下だけでいいだろ」
 言葉と同時に、ズボンと下着が脱がされていく。押さえられながらももがいているのでそう簡単には脱げないが、少しずつ確実に剥がれていった。
「やめろって! …う」
 布地と性器がこすれた一瞬、体に電流が走る。感覚に体が跳ねた。
「すげえ、脱がしただけでビクッとしてる。即効性って、本当に早く効くんだな」
 男が言い終わる頃には、下半身の衣服は全て脱がされていた。肌で触れるアスファルトはとても冷たい。なのに、体が先ほどより確実に熱くなっている。じわじわと熱が下からせり上がってくるようだ。一番熱が集中しているのは下肢で、全く触れられてもいないのに、何か刺激があればすぐに反応してしまいそうになっていた。
「押さえるのと慣らす方、ジャンケンしようぜ。ジャンケン、ほい」
「よっしゃ勝った! 押さえる方が楽だな」
「ちっ」
 どんどん熱くなる体に息が荒ぐ。一度の呼吸が短くなり、吐き出すたびに鼓動が響く。二人の会話をはっきりと認識した頃には、少し体を起こして後ろから腕を抱えられていた。もう一人は前にいるままで、何をすればいいか考えあぐねているようだ。
「慣らすって言っても。水も無いのに、どうすりゃいいんだ」
 こんな計画を立てておいて、具体的なことはあまり考えていなかったらしい。
「先走りでやってやればいいじゃん」
「マジかよお、やりたくねえ」
 でもやるしかないな、と不満そうにぼやき、その手が足の間に伸ばされてくる。
「ふざけんな……嫌なのはこっちだ!」
「暴れるなって、押さえるのが大変だ」
 ばたつくも、抵抗には大した意味がなかった。あっさりと冷たい指で性器を包まれる。
「うっ」
 途端に意識も熱もそこに集中し、足に力が入った。軽く上下に動かされるだけで鋭い快感が走り、抵抗目的でなく本能的にたじろいでしまう。
「ん、……っく、あ」
 恥ずかしい声が洩れた。そこが触れられただけで大きくなるのが、自分でも分かる。薬があっという間に回って体中に熱が走り、頭が痛いほどになる。
「もうヌルヌルしてきてる。早いのはレースだけじゃなかったのか」
「……あっ、あ…うう」
 アホ野郎め、薬のせいに決まってるだろうと言って喚こうとしたが、先端に指を押しつけられ、そのまま小刻みに動かすようにされると口からは喘ぎしか出なかった。
 胸までじんじんとしてきて、自分で体を動かし服でこすってしまいたくなる。
「や………やめ、ろ…」
 ぬるついた指で敏感な部分を探られると、そのぬめりでますます気持ちが良くなってしまう。まだまだ射精しそうにはならないが、先端から液が滲む。
「うええ、気持ちわりい」
「やらなきゃ終わらないんだから、さっさとやっちまえよ」
 男は自分の指にそれを塗りつけ、今より下に指を伸ばしてきた。
「っ、く」
 自分でも触ったことなどない場所に触れられる刺激は、それだけで声を堪えられない衝撃を与えてきた。あらぬところに指が伸ばされ、更に侵入しようとしてくる動きは、快感か不快かすら分からない初めての感覚だ。
 しばし指は入り口で角度を変え、入れやすい向きを探っていたが、何度か往復してから唐突に入ってきた。
「う……うわあ!」
 ずぶずぶと一気に指を入れられ、驚いて大声が出た。
「や、やめろ、やめ、ぬ、抜けっおい…」
 その上、感覚を認識するより前に抜かれ、またそれを理解する前に入れられていく。感情が追いつかない行為を繰り返され、あっという間に何も分からなくなっていく。
「熱いな」
「ひあ………っ」
 男が呟き、指で内側を押した。ぐっ、ぐっと体内を押されるのに、耐えきれず力が抜けた。思わず後ろの男に身を預けてしまう。
「ドラッグやべえー。感じすぎじゃん」
 力の抜けるような言葉に反応する気力すらなく、思うのは体内を動く指のことだけになっていった。
「ん……うう、あ、あ、……あ!」
 ぐにぐにと、中を掻き回していた指を全て入れられる。そこまで深くなると先ほどよりずっと衝撃が大きく、今度は後ろの奴に体を押しつけるように力を入れてしまった。
「うっ、………あ、い、嫌だ、あっ」
 奥まで入った指がくねり、抜かれ、また入る。始めは中で動かされると堪らない気持ちになっていたのが、何度も抜き差しされる内、それに声が上がるようになっていた。
 抜けるときと入ってくるとき、それぞれの感覚が堪らない。体がぞくぞくする。女の子とのセックスとは全然違う種類の快感があって、少しずつ、少しずつ追い上げられ、高みにのぼっていくようだった。
 しかし、そうして快感の声を上げている途中で、指はずるっと引き抜かれた。
「はあ、はああ……」
 頭に一瞬、抜かれてしまった、と残念な気持ちが浮かんでしまったのを理性で打ち消す。
「あんあんうっせーよ、自分のも勃たせようとしてるのに、萎えるじゃねえか」
 そんなに男相手が嫌ならこんな計画を立てるな、と思う間もなく、足を抱え込まれた。
「ろくに腰が立たないようにしてやる」
 そう言って体が近づくと、たった今いじられていた場所に指よりもずっと熱く大きなものが当てられた。押し入ろうとされるのに、抵抗したくても体に力が入らない。
「おま………えら、こんなことしといて、本当に俺が、誰にも言わないと思って…るのか」
 絞り出した声は自覚できるほどに弱々しかった。話しながらもまだ体内に何かが入っているようで、言葉が細切れになる。
 前に立つ男がそんな姿を見て笑う。
「言えるなら言えよ! 尻を掘られて気持ちよくなって腰が抜けたんで負けました、って」
「どうせ言える相手もいないくせに」
 後ろからも煽る声が聞こえ、悔しさに歯を噛みしめる。
「入るかな」
 男が、ゆっくり腰を進めてきた。指一本とそれでは、さすがに大きさが違いすぎる。ぐいぐいと押しつけてもほんの少ししか入らなかった。
 それでも押しつけたり離したりを繰り返すうち、だんだん、広がっていくのが分かった。
「う……痛…」
 先ほどは指だけだったので大して痛みも感じなかったが、さすがに勃起した性器となると別だ。薬が回って体がしびれ、掴まれている腕の温度すら快感になりそうなのに、確かに痛みは走る。
「はあ…は、あ………」
 身を引かせようと再び身じろぐが、やはり逃げるのは無理だった。強引に熱をねじ込まれていく。いやだ、やめろと何度も声で抵抗する間に、先端が入ってしまった。一番太い部分で止まる苦しさに、何度も短く声が出る。
「く、苦し………はあ、痛…う」
 じっくり、時間を掛けて中に押し進んでくる。一体どうなってしまうのか、全て入る頃には苦しさで死ぬのではないか。そんな不安が浮かぶ。
「スゴイ熱い、焼けそうだ」
「うあっ!」
 今までより強く、突き上げるように性器を押しつけられ、ずるっと残りが一気に入ってしまった。思わず大声が出る。そして体がびくっとすくみ、その後は、衝撃で小刻みに声が洩れた。
「あ……ああ、う、あ…はあ、あ……」
「ふー、やっと全部入った」
 繋がったそこからじんじんと、痛みと、そうでないものが走る。頭をすっかり温度が支配し、その熱さに瞳が潤む。
「う……」
 息をすると、すん、と、まるで泣いているように鼻が鳴った。呼吸のたびに、くわえ込まされたものの大きさを感じる。どこまで入っているのかまで分かる。ほんの少し身じろぐだけで堪らなくなって、体に力が入りしめつけ、ますますぞわっとする。
「ん、ああっ!」
 男がゆっくり抽挿を始めた。大きなものがずるりと抜け、喪失感に襲われる。かと思うと熱杭で再び広げられ、声が上がる。
「あっ、あっ」
 こんな性交は痛みばかりであるはずだ。なのに今、入れられたばかりなのに、体には確実な快感がもたらされている。体の奥を突かれるたび、射精より気持ちがいいほどになる。力を込めるとますますいっぱい入れられてるみたいだった。
「はえー。もう、めちゃくちゃ気持ち良さそうになってやんの」
 そんな嘲りにも熱っぽい喘ぎでしか答えられない。声を出さなかったら体内をこすられる気持ちよさに気が狂ってしまいそうだ。
「この体勢、突っ込みづれえや。立たせてくれ」
「りょーかい。ほら、立て」
 何度も激しく突っ込まれ、何がなんだか分からなくなってきたところで男が言った。すぐ、腕を押さえていた奴が答え、腕を引っ張るようにして立たされる。力が入らず、されるがままになる。
「あ……」
 立つとき、性器が全部抜け、その感触に体が震えた。
「ほら、その扉でも掴んでろ」
 言われて、何も考えられないままに厩舎の個室の扉に手を掛けた。扉には胸もと程度の高さしかないが、仰向けに寝ていたよりはずっと視点が高くなる。
 そしてぼんやりとした頭で、手を掛けた扉の先をのぞき込み、ハッとした。
「だ、駄目だ、扉は…」
 視線の先に、明日のレースを共にする馬がいた。今まで薬にすっかり流され忘れていたが、ここには馬たちがいるのだった。忘れていた自分が不思議なほどだが、今の今見るまで考えが及ばなかった。
 馬は心配そうに、あの美しく大きな瞳で僕を見つめる。その美しい漆黒に、快感でとろけた表情をした僕が映っていた。
 先ほどまでの酩酊が吹っ飛ぶほどに恥ずかしい。目に映された僕は、どう見ても気持ちが良さそうだ。
 一度引き抜かれた性器が、また入ろうとして押しつけられる。
「やめ……、やめろ」
 少し戻ってきた理性を必死で働かせ抗議する。
「馬が見てる…」
 しかし男にはそんなのはお構いなしだった。
「見せつけてやれよ。馬に、明日レースするジョニィ・ジョースターはこんなことで喜ぶ、変態ですって」
「あっ、ああ!」
 言葉が終わらないうちに、勢いよく一気に全てを埋め込まれた。
 そしてまた律動が再開される。男は僕の腰を抱え、先ほどよりずっとペースをあげて性器を突っ込んでくる。
「あ、やめ……はあ」
 また襲ってきた快感に飲み込まれる。もう、気持ちよくて気持ちよくて、いつ射精してもおかしくない。押し込まれる性器の固さが嬉しくなるほど、気持ちいい。声は止まらず、快感に体が震え、目をぎゅっと瞑る。
 心の中で、見られている、駄目だと思うのに、何に見られているのかすら分からない。いけないと思うけど、気持ちいい。それしか考えられない。
「俺、やることないじゃん。せっかくだから、こっちもしゃぶれよ」
 もう一人が僕の腕を片方掴み、扉から離させた。そして扉と僕の間に自分の体を入れてくる。
「ほら」
 閉じた目を開くと、そこには勃起した性器があった。もう一人もいつの間にか勃っていたらしい。男は手で自分の性器を少し持ち上げ、僕の口の真ん前に持ってきて、くわえやすいようにした。
「ん、う、はあ…」
 それがいいのか悪いのかも分からず、ただ言われた通りに口をつける。
「んー……」
 唇を寄せただけで、それはビクビクとした。それが何故か嬉しくて、僕は舌を出してその茎を舐めた。舌に苦みが広がる。
 そうしている間にも、後ろからは変わることなく、貫かれ続けている。入ってくるたびに体が揺さぶられ、目の前の性器を余計強く舐めた。
 男のペニスは変な味がするだけで少しもおいしくないのに、体の中にこれが今あるんだと思うと、舐めているこれまで特別に思えて、僕は必死で舌を這わせた。そしたらもっと気持ちよくなれる気がして、一生懸命、いろんな場所をぺろぺろ舐めた。
 途中から先端も舐め始める。先のほうは、余計に嫌な味がしそうだったけど、そこにもしなきゃいけない気がして、そっと舌を乗せた。ペニスは先ほどよりも気持ちが良さそうに震え、ますます嬉しくなり、もっと舐めた。だんだん大きくなっていく。興奮した。もっと、もっと舐めたい。このペニスをもっと大きくしたい。
 何も考えずに揺さぶられ、舐め、声を出していると、しばらくして性器の抽挿が更に早くなった。
「うわ、あっあ、な、なに…………」
 挿入というよりもぶつけられているようなほど激しく、気持ちよくて唾液が口から垂れた。その強さに喜んでしまう。だが、喜びは長く続かなかった。
「はあ、すご……っあ!」
 音がしそうなほどの強さで、性器ですら届かなかったほど深くへ熱い液体が叩きつけられた。一度受けた衝撃に驚いて体を硬直させると、抜き差しは続けられるままに、どくどくとまた、流れ込んでくる。
(あ……射精されてる…)
 まさに今、この瞬間、体内で精液が吐き出されている。そのことを考え、あまりの興奮で体がよじれた。我慢ができないほど体が高まり、気がつけば僕も吐精していた。性器も触られていないのに出してしまうのが、ごく自然に感じられた。
「はあ………はあ…」
 小さくなった性器を抜かれる頃には、僕も全てを床に出していた。興奮を鎮めるため大きく息をする。目を閉じて息を整える間に、体内から精液が出るのではないかと、体が震えた。
「はあー……」
 力が抜け、その場に崩れ落ちる。床が冷たいとか、汚いだとか思っている余裕はない。
「せっかく勃ったままだし、俺も突っ込もうかな」
「そうすれば? その方が明日のためになるだろ」
 頭上から声がする。
 もう体がくたくたで、意味は分からない。だが、すぐに無理矢理に理解させられた。
「天才ジョッキー様の乗っかるテクニック、見せてくれよ」
 僕がさっき性器を舐めていた男が、そう言って床に座り込む。なぜ座るんだろう、と疑問に思ってすぐ、もう一人がすっかり力の抜けた体を抱き上げた。
「ほらほら、乗馬テク見せて欲しいってさ」
「え? あ……」
 思考のまとまらない頭で声のする方を振り向いた。
「あ………ああああっ!」
 その途端、体を離された。ついさっきまで自分が舐めていた、性器の真上で。認識する頃にはその全てが体内に入っていた。
 完全に勃起した性器が再び収まってしまう。乗っかっている分、先ほどよりも強い挿入感がする。
「嫌だ……また」
「何が嫌なんだよ、また勃たせてるくせに」
「…嘘、だ………。そんな」
 出したばかりなのだ。いくら麻薬が入っていても、そんなすぐに勃つはずがない。しかし、目を向けると確かに、僕の性器はまた角度を変えていた。
「嘘だ……」
「何が嘘だよ、事実じゃん」
 ショックだった。一度出したのに、まだ興奮が冷めない。気持ちがいい。また奥に性器が入ってきて、嬉しいとすら思う。自分がこんな人間だとは思っていなかった。
「おい、動いてくれよ」
「……う」
 催促されても、体には力が入らず、とても動ける気がしない。
「はあ、あ」
 できるのはただ、性器の熱さを感じて喘ぐことだけだ。その様子に男も諦めたのか、下から腰を使ってくる。
「仕方ねえな」
「あ! あっ、あ、ああ、はあ」
 反動で途中まで抜け、また一気に入る。腰が浮かび、勢いよく落ちる。先ほどよりずっと感覚の激しいセックスだった。
 その勢いに、先ほどあんなに深くに出された精液が、抜き差しされる性器を伝って出る。
「あ……凄い」
 好きなように揺すられ、快感で高い声が出る。その様子に、見ている男が不満を言った。
「見ててもやることなくて暇だ」
「知るか、そのぐらい我慢しろ」
 もう一人にそう言われたのだが、やはり退屈なのは嫌らしい。男は後ろから、僕の胸もとに手を伸ばしてきた。
「ひゃ………あああああ! やっ、やめろ、手ー離せ!」
 その指が両の乳首を掠めた途端、全身に痺れが走る。
「うわ、すげえ。今、めちゃくちゃ締まった」
「マジかよ。弱いのか、胸」
「手、離……う、あああ、嫌だ、あっ!」
 僕の過剰な反応が面白かったのか、手は離れるどころか、乳首の位置を探ってくる。服を通してでもツンと立っていた胸は、あっさりと場所を知られ、同時に摘まれた。ぎゅっと体に力が入る。
「や、やめろ………ひあ…っあ」
 体が何度も何度も跳ねる。指で乳首を掴まれると、切ないような快感が一気に体中に走り、それだけでまた射精してしまいそうになる。
「そんなにいいのかあ?」
「ひっ、ひあ、ひゃ、うああ、ああ」
 右の胸を人差し指の腹でぐりぐりされる。ちょっと動かされるたび、あまりに気持ちよくて仰け反ってしまう。勝手に体がたくさん動く。全身に走る、直接的であまりに大きな快楽。下からは性器を突き込まれ、どこまでも高められてしまいそうだ。
 けれど、そうされているのは右だけだ。左は胸を探られたときに触れたきり。中途半端に触られ、乳首が堪らなくジンジンする。我慢ができなかった。
「ひ、ひだり。ひだり、も、いじって…」
 ねだってしまうと、すぐに左側にも再び指が伸ばされた。
「あっ!」
 体にまたあの感覚がくる。体中に力を込め堪えようとするが、とても我慢はできない。両方の胸を、同時につまんだり捏ねたりされ、もう快楽のことしか考えられなくなりそうだった。
「あ、ああ、う、いい、気持ち…いい」
 入れられる性器が、どんどんその質量を増していた。大きくて、熱くて、固くて、いくら気持ちよくなっても追いつかない。一度めは抜き差しが良かったけれど、今は一番奥を突かれるのがいい。奥を突かれて掻き回されるのがいい。
「もっとして……もっと突いて」
 与えられる快感が胸からなのか、下からなのか分からない。けれど、どちらでも良かった。どっちでもいいからもっとして欲しい。
 そして、ぐりっと突き込まれるのと胸を摘まれたのが同時になったとき、僕は再び達してしまった。
「あっ、いい、はあ、あ……」
 頭が真っ白になる。もう、どこもかしこも気持ちが良くて、性器だけでなく全身でイった。全部がよくて、もう分からない。
「イキながら突かれると、もっと良くなっちまうんだなあ」
 笑う声にすら感じる。体に勝手に力が入り、ペニスを強く締め付けたとき、中に再び熱いものが掛かった。
「うう、あっ、あっ…」
 身をよじり射精の衝撃に耐える。びしゃ、とぶつかる灼熱に体が焼けそうだった。その余韻にまだ体が震えているのに、性器は引き抜かれてしまった。また精液の全てを残された。それが駄目なのか、分からない。いいことかも分からない。でも、考えると、また体が気持ちよくなる。
 今度こそ床に崩れ落ち、はぁはぁと息を整える。
「じゃあな、天才ジョッキーのジョニィ・ジョースターさん」
 声がしたので視線を巡らせると、転がっている瓶が見えた。



 澄み渡る青空はどこまでも続くようで気持ちが良く、絶好のレース日和だった。
 また一つ増えた優勝カップを手に、取りあえずの安堵の息をもらす。そして一息ついた頃、カメラを持った新聞社の奴らが数人近づいてきた。
「今回も優勝ですね。素晴らしい」
 インタビューがあるのは大体いつものことだが、毎度毎度、よく作り笑いを浮かべられるものだ。僕はそれが不愉快なので、まともにインタビューに応じることはあまりなかった。それがますます、彼らの浮かべる笑みをわざとらしくさせているのは知っている。悪循環だ。
「優勝の秘訣は何ですか?」
 昨日からの疲れも溜まっている。適当に切り抜けてしまおうかと、口実を探すために軽く辺りに目を向けると、近くの人混みに紛れ、昨日の二人がいるのを見つけた。
 悔しそうな顔、呆然とした顔。その二つを見て、気が変わる。笑みの形に自然に歪んだ表情はそのままに、記者に向き直り、一言吐き捨てた。
「弱い奴しかいなかったこと」
 途端に周囲がざわめいた。目の前で、ペンやカメラを持った奴らも、思わずといった様子で顔をしかめる。周りに選手もいる中で言ったのだ。当たり前だろう。
 小声のどよめきは聞き取れないが、声の調子で好意的な内容でないことは分かる。偉そうに、Dioより弱いくせにとか、何様だ性格が悪いとか、どうせその辺りのことだろう。
 振り向いて先ほど彼らがいた場所を見ると、奴らはもういなかった。少し先に、一秒でも早く離れたいと言わんばかりに走っていく姿を見つける。
 くだらない奴らだ、あの程度のことで僕がレースに負けると思うなんて。嘲笑を向け、自分もその場を去ることにした。引き留める声はない。
 今日のこれで、ますます僕の悪評は広まり、反感を持つ奴らも増えるだろう。それでいいのだ。父さんのところへも、こんな評判が届いてしまえばいい。
 運命に追いつかれるのを待つだけの人生、いくらだって崩れてしまえ。
 昨晩奴らが残していったセックス・ドラッグは何回分ぐらい残ってるかな。そんなことに思考を巡らせる頃には、たった今のできごとなんて記憶から溶けてしまっていた。



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